M&A費用は工夫により変わる
複雑な知見が必要
金融機関や公的機関の指導、紹介によりM&Aを実施する場合、単純明快なストラクチャーで実施されことが多いと感じます。勿論、それが本来の在り方なのですが、ちょっとした工夫により再編後の財務報告体制や課税が大きく改善される例が珍しくありません。
合併では、株式を譲渡して100%子会社にすると同時に合併するという手法が取られることが多くあり、広く普及しているやり方です。こうすると適格合併となり、資産・負債の時価評価が不要となり組織再編の手間が大幅に削減されます。勿論、上場企業等を初めとする利害関係者への適正な報告が求めらえる企業が採用するのは好ましくありませんが、借入金のないオーナー企業等では問題ないと感じられます。あくまで目的は事務手続きの煩雑さを回避することです。
ただし、適格合併は一定の要件を満たさない限り繰越欠損金が双方とも消滅するという特徴があります。存続企業の繰越欠損金までも消滅してしまうのは逆さ合併による繰越欠損金の悪用を防止するための規定です。
僅かな配慮で課税が大きく変わることも
資産に含み益が生じている場合、合併により包括的に資産負債を受け渡すのではなく、事業承継に必要なものに厳選することで含み益の実現を遅らせ、売り手と買い手双方にメリットをもたらすことが出来ます。事前準備として新設分割により売り手が法人を分割させます。
この際、承継させない事業を新設分割の対象にすることが大切です。継続保有要件を満たし、適格組織再編となります。仮に、承継させる事業を新設分割させてしまうと非適格組織再編となり、含み益が精算され法人に課税されると共に、みなし配当が生じてしまいます。株式保有者が個人である場合、配当の2重課税の回避は十分になされていませんので納税額が跳ね上がります。しかも、配当所得は総合課税となりますので悲惨なことになってしまいます。
株式から得られる所得も、法人の所得となれば40%近い税率、個人の所得となり配当により実現した場合は総合課税になりますが、譲渡であれば分離課税20.42%になります。株式の含み益を実現させるという意味では配当所得も譲渡所得も同じなのですが、何故か税率が大幅に異なるため、譲渡所得となるようなストラクチャリングが取られるのを良く見かけます。
これらは、同じ株式から得られる所得なのに、配当として実現させるか、譲渡により実現させるかによって個人だと税率が異なるという不可思議な制度に起因します。また、理論的には1つの所得に複数回課税されるべきではありませんが、個人が配当を受領した際の配当控除は小さく、事実上2重課税がなされていることが原因でストラクチャーにより税金が変わるのです。
税金にこだわりすぎると失敗も
M&Aの際の税金は非常に大きくなることがあり、税金への影響のみを考慮してストラクチャリングするケースを見かけます。しかし、確かな形で目に見えませんが、「M&Aを成功させてシナジー効果を生み出せるか」の方が金額的影響が大きいことも事実です。
業績に直結する財務報告体制への影響や、PMI業務における人事評価制度や給与賃金規定の統合、ブランド価値への影響等、様々な要因を軽視して税金のみを注視した結果、複雑怪奇なスキームとなり本業が上手くいかなくなるということも珍しくありません。
M&Aの際には、様々な要因を包括的に考慮してストラクチャリングする必要があり、高度な見識が要求されます。