M&Aにおける繰越欠損金の制限

繰越欠損金の趣旨とは

企業は、毎期安定的な損益を生じるとは限らず、益→損、損→益と決算の基準日を跨いで業績が変化することがあります。この時、繰越欠損金が仮に存在しなければ、期間を一貫したときに損失を生じているにも関わらず課税が生じてしまい、過大な税金が発生することがあり得ます。所得が生じていないのに利得課税を支払うのは不合理ですから、担税力に応じた適切な課税を実現するために繰越欠損金があります。

外から持ってこれない

多くの人が思いつくのが、繰越欠損金を抱えている会社を合併するというものです。しかし、上記の通り繰越欠損金の趣旨は、過去の損失と当期の所得を通算して課税するものですから、外から繰越欠損金を持ってくるのは不当な法人税等の減少となり、吸収合併消滅会社の繰越欠損金は原則として消滅いたします。

ただし、親子会社は実質的に一体ですから、子会社と合併した時まで繰越欠損金が消滅するのは首をかしげる部分があります。部門では損益管理がしにくい等の理由で、事業を子会社として切り離したりする訳ですから、実態としては部門でも子会社でも変わりはなく、整合的な課税がなされる必要があります。

かといって、子会社との合併であれば繰越欠損金を継承できるとしてしまうと、外部の会社を一度子会社にしてから合併すれば規制の潜脱が図れます。そこで5年以上の支配関係がある場合等は継承が可能となっています。親子会社の関係下において概ね生じた繰越欠損金であれば継承して良いという考え方なのでしょう。繰越欠損金の趣旨に即したルールだと感じられます。

逆さ合併するとどうなるのか

吸収合併消滅会社の繰越欠損金が消滅してしまうのなら、繰越欠損金を保有している会社を存続会社にすればいいんじゃないかと考える人がいます。もちろん、不当な法人税等の減少であれば包括規定で対応されるのでしょうが、逆さ合併による繰越欠損金の承継を直接禁止する規定はありません。

前期が赤字で繰越欠損金を保有している会社が、経済的合理性のある理由で合併を実施することは十分にありうるわけですから、一律に存続会社の繰越欠損金を消滅させるとは出来ないのでしょう。通常の経済活動を妨げてしまいます。ちなみに適格合併の場合は、一定の要件を満たさない限り存続会社、消滅会社双方の繰越欠損金が消滅します。グループ間の合併は、両者が同じ意思決定に属している訳ですから、繰越欠損金があるなら合併しなければいいだけの話ですし、十分に理解できる制度です。

事業内容を移管させるとどうなるのか

合併ではなく、株式譲渡により繰越欠損金を有する企業を支配下におさめれば、別々の法人格として残る訳ですから繰越欠損金は当然消滅しません。そして、事業譲渡や巧妙に固定資産や従業員を移管させれば、外から繰越欠損金を持ってきたのと同じ効果を生み出せてしまいそうです。

しかし、支配株主が変わったということは、過去の事業活動との連続性が断たれていると考えれますので、支配の移転があり、かつ多額の資金が投入されて新しい事業を始めた場合等、明らかに繰越欠損金目当てで法人格を利用していると想定されるケースでは、繰越欠損金を使用することができません。

こうなると、投入する資金量や事業規模を調整したり、名目的な株主をたてたりしようとする人が出てくることが予想されます。公平な課税と租税法律主義の両立は難しいとつくづく感じられます。

意図せず繰越欠損金が消滅してしまうことも

実は、繰越欠損金の持ち込みと同じ効果は、含み損を有する資産を持ち込むことによっても可能になってしまいます。これに対する様々な規制もあり、複雑な手法ですと、一度完全子会社化してグループ間で含み損のある固定資産を譲渡し、グループ法人税制の規定で損失を繰り延べた後に合併して実現させる、というものがあります。

このグループ法人税制を利用した含み損に対しては、このような取引の後に合併すると存続会社、消滅会社の繰越欠損金が双方消滅するという、雑な規定になっています。M&Aは消滅会社の従業員から反発があることは珍しくなく、一時的に子会社とした後に法人格を統合するというのは非常によくある話です。

不正な意図などなくても生じうる取引で繰越欠損金が消滅してしまうという規定になっており、M&Aの前後には慎重に取引を選択しないと思わぬ損失を被ってしまいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。