監査法人は重要性をどうやって決めているのか

会計監査の趣旨から

会計監査の目的は、投資家を初めとする利害関係者の保護にあります。そのため、投資意思決定に影響しないような微少な虚偽表示までも問題にする必要があるのか、というとそんなことはありません。

重要性の基準値

どのくらいの金額の虚偽表示があったら、投資家の意思決定に影響があると言えるかですが、ここは感覚的にならざるを得ません。利益の5~10%、又は売上の1~2%前後が使用されていますが、この根拠を記載している文献は見たことがありません。恐らくは慣習で根付いたのでしょう。そして例示として基準に「税引前当期純利益の5%」が記載されており、よく使用されますが、やはり根拠は書いてありません。

確かに、「1,000の利益があります。」と決算発表して、これが現実には970だったとしても、投資家はあまり反応しないような気はします。この、投資家の意思決定に影響するであろうボーダーを重要性の基準値と言います。

手続実施上の重要性

ややこしいのが実際に監査の現場で使用される手続実施上の重要性です。この金額を超過した虚偽表示を発見したら、監査人は重要性が有ると判断いたします。算定方法ですが、一つは「監査人は全ての虚偽表示を発見できる訳ではない。」という前提を置いていることが影響します。利益が2,000だから、重要性の基準値を100(2,000×5%)と設定したとします。監査は全ての虚偽表示を見つけられるように手続を組み立てていないですから、監査手続で100の虚偽表示を発見したら実際には110とか120とかあるだろうと予測する訳です。

これらの理由を考慮して、手続実施上の重要性は重要性の基準値の60%~90%くらいになります。つまり、利益の4.5%(=90)とか、それぐらいになるということです。60%~90%という数値は、ほとんど感覚的に使われていて、明確な計算根拠にはお目にかかったことがありません。

この「未発見の虚偽表示」は監査人が見落としをするかもしれないと言っておりますが、見落とす確率は定量化できませんのでうやむやになっているのかもしれません。

明らかに僅少な額

手続実施上の重要性を超えなかったとしても、原則として虚偽表示が見つかればレポートに載せなくてはならないし、社内で問題になるし、リスク評価にも影響してきます。そこで気になるのが、監査手続上明らかに僅少な額として無視できる金額はどのくらいなのかということです。

監査は財務諸表項目(現金預金とか)に分けて手続きを実施します。財務諸表項目が20個あって(実際はもっと多いですが)、仮に10以下の虚偽表示は明らかに僅少な金額として集計しないとします。すると、10以下の財務諸表項目は手続が行われません。最悪、10×20=200の虚偽表示が存在するのに集計されないことになります。手続実施上の重要性を超えてしまうので許容されません。

仮に手続実施上の重要性を90(1,000×90%)と設定したとします。逆算すると、90÷20=4.5で、明らかに僅少な金額を4.5未満に設定すれば、すべての財務諸表項目に4.5の虚偽表示が含まれており、集計しなかったとしても、手続実施上の重要性に達しませんから許容されます。当然ですが、手続きの途中で明らかに僅少な金額を超える虚偽表示が集計されたら(かつ修正されなかったら)、これらを見直す必要があります。

そんなこんなで、明らかに僅少な額は手続実施上の重要性の5%くらいに設定されることが多いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です