内部統制監査制度の失敗
導入の背景
導入のきっかけとしてエンロン事件があります。米国で導入され、日本でも追随した形です。会計監査人は監査基準日の前後しか監査対象と接触しません。そうすると、期中の監視がどうしても効かないので自分自身のことを統制させる、という発想になったのだと思うのですが、この監査制度は失敗だったと感じています。内部統制を否定している訳ではありません。内部統制監査が失敗だったと言いたいのです。
そもそも会計監査の意義は第三者が行うところにあり、監査対象に自分自身を統制させ、それを監査するという発想自体が会計監査の存在意義を否定しているのではないでしょうか。期中の監視、監督は本来、監査役が担うべき業務です。監査役が機能しないのは、株主が経営に無関心で、提案された取締役、監査役等を無条件に是認し、事実上監査役の任命権限を取締役が握っているからです。
そして、監査役には不正を発見する動機もあまりありません。下手したら既存株主にもないかもしれません。粉飾による利益であっても、株価が上昇すれば有利な価格で新株発行できるわけですから、リフレクション効果によって、企業業績は改善します。被害を被るのは潜在的な株主のみです。
どうやって内部統制の運用を監査するのか
これが一番の問題です。内部統制監査制度の考え方は監査対象に自分で自分を統制させ、統制した記録を会計監査人がチェックすることで、内部統制の整備運用状況を監査するというものです。内部統制監査の結果が適正なら、企業の自己チェックに依拠して会計監査をするのです。
具体的には、ハンコのチェックです。監査対象が本当に期中の内部統制を運用していたかなんて分かりっこありません。そこで、「自分で自分のことをチェックしたら、ここにハンコ押してください。」と取り決めをしておいて、押印を閲覧することで内部統制監査する訳です。当然ですが、会計監査人が来訪する前日に書類を並べてハンコを連打しているのが現実です。会計監査人もそんなことは分かっていますが、気付かないふりをして内部統制監査するのです。
これは本当に馬鹿馬鹿しいの一言に尽きます。会社が自身の業務を自身でチェックする内部統制は勿論大切なものです。しかし、それを往査ベースで外部から監査しようという発想が理解できません。制度を構築した人も間違いなく実効的な効果があるとは思っていなかったはずです。監査法人の仕事を増やすためだけに創設された政治的妥協の産物としか思えません。
結果として何が起こったか
内部統制監査制度を導入した結果として、監査対象には会計監査人が来訪する直前にハンコを押しまくるという作業が出来ました。会計監査人にはハンコの有無をひたすら閲覧するという仕事が出来ました。監査の品質は全く上がりませんでしたが、監査法人は売上が増えて良かったのかもしれません。