ファンド設立という選択肢
メリット・デメリットが混在
新たな事業を立ち上げる際、特に共同で事業を立ち上げる場合に、一般には株式会社の設立という選択がとられることが多いように感じます。広く普及している法人の種別であるため、特殊な知見を必要とせず会社法により出資者がきちんと保護されており、業績把握もしやすいというメリットがあります。
しかし、立ち上げ序盤は赤字が見込まることが珍しくありませんが、損失を投資元が取りこんで所得を減少させるには高いハードルがあります。保有株式の減損という処理になりますが、かなり大きな損失でなければ認められていません。様々な選択肢の中で、株式会社を選択することのデメリットと言えます。
広く利用される匿名組合
匿名組合は、パススルー課税が適用されます。投資先で生じた損益を投資元に直接帰属させることが出来ます。序盤が赤字になる予定である場合、パススルー課税の形態を選択したか否かで資金繰りに大きな差異が生じます。
営業者となる法人が事業活動に用いる資産・負債を所有して業務を執行する形態であるため、法人格がなく各種契約が困難であったり、許認可を受けれなかったりという問題も生じず、LLPやLPSにはないメリットがあります。また、投資元である匿名組合員は間接有限責任となるため、無限責任でない点も利用されやすい理由です。自治が広く認められ、損益分配割合を出資額と別に定めることができ、出資資金の準備が行いやすいものとなっています。
デメリットとして、原則として金融商品取引法の規制対象となることです。しかし、金融商品取引法の趣旨は投資家の保護であるため、いわゆる事業ファンドと呼ばれる、全ての出資者が自ら事業に参加して事業活動を行うようなファンドでは規制の対象外となることがあります。このような場合、匿名組合という選択肢が有力なものとなります。
ただ、自治が認められているということは、法の明確な規定により組合員が保護されていないということで、組合員同士の強い信頼関係がないとトラブルになりがちです。
有限責任事業組合(LLP)
民法上の任意組合ですと組合員は無限責任になり、法人格がないため代表者の名義で契約等を行わざるを得ず、使いづらい点が多々ございました。LLPはこのような欠点を補うべく制定された制度です。LLPでは組合員全員が有限責任となります。
登記が義務付けられていますので、法人格がないもののそれに近いような取扱をしてくれる場合が多く、民法上の任意組合よりかは各種取引もしやすい印象があります。匿名組合と同様にパススルー課税、自治が認められている点も特徴です。
ただ、あくまでも民法上の任意組合の延長という位置づけであるため、匿名組合ほど使い勝手は良くなく様々な制約もあります。法人格がないことが有利に働くこともあり、事業内容によってはLLPを選択していくべきと言えます。
具体的には、LLPで株式を売却する場合、組合に直接帰属し、個人であれば分離課税の20.42%で課税されます。仮に匿名組合であれば、雑所得で総合課税となってしまい不利になるケースが多いです。そのため、株式等に投資する場合LLPが採用されることがあります。
LLPは共同事業を行うことを想定して創設された制度であり、全ての組合員が業務執行に参加することを前提としており、全ての組合員の同意によって業務が執行される場合にはファンドに該当せず、金融商品取引法に係る規制の対象とならないと解されております。これらの点から、匿名組合契約に次いで利用される組合と言うことができます。
投資事業有限責任組合(LPS)
LPSは公認会計士、又は監査法人による監査が必要になる等、コストがかかる要因もありますが、LLPのように共同事業性の要件は求められておりません。そのため、ファンドオブファンドを組成する際に利用されることがありますが、実務上は出来る限りLPSを採用しないようにストラクチャリングされる例が多く見受けられます。